軽演劇という言葉自体あまり聞くことが少なくなってきたが、この灯を絶やすまいと奮闘している役者・芸人はまだまだ存在する。今回は、大衆文化としての東京の軽演劇を紹介したい。

タレントの萩本欽一さん(72)が、3月30日にラスト公演である東京・明治座「ほめんな ほれんな とめんな」の千秋楽を迎え、軽演劇の世界から引退したのは記憶に新しい。萩本さんも浅草で芸人としての修業を積み「軽演劇をこのまますたらせたんじゃ日本の文化を失くすようなもの」といって奮闘してきた一人だ。
さて、軽演劇とは、本格的な芸術としての演劇に対して、軽い娯楽と風刺に富んだ大衆劇という意味で1930年くらいから演劇の1つの分野として認識されるようになったものだ。ストーリーやメッセージ性よりも娯楽性を重視したものでコントのようなお笑いの要素を含んだ劇として演じられる。1923年に起こった関東大震災以後の不景気を明るく笑い飛ばしたいという時代背景から、西洋のスラップスティックと呼ばれるコメディ演劇や浅草オペラやなどの要素を取り入れて発展していった。戦前から戦後にかけて新宿東口のムーラン・ルージュ新宿座、浅草の松竹演芸場や東洋劇場などが、後に大スターとなる数々の喜劇役者や芸人を輩出している。戦後、演じる人が少なくなったこと、舞台装置等にお金がかかることなどから廃れてしまったという。ムーラン・ルージュ新宿座は1951年に閉館、浅草の軽演劇のシンボルといわれた東洋劇場は1971年に演劇から撤退し、現在は浅草演芸ホールとして落語の定席となっている。関西では吉本興業(現よしもとクリエイティブ・エージェンシー)が戦後立ち上げた吉本新喜劇が現在も脈々と受け継がれているが、東京には軽演劇を専門とする一座・劇団や常設の劇場などはあまり残っていない。

さて、東京の軽演劇を後世に残したいと立ち上がったもう一組は、伊東四朗さん(76)と三宅裕司さん(62)を中心とする伊東四朗一座および熱海五郎一座である。彼らは、東京の軽演劇の舞台を再現しようと、2004年、『伊東四朗一座 〜旗揚げ解散公演～喜劇 熱海迷宮事件』を下北沢の本多劇場で上演した。「旗揚げ解散公演」と銘打っているとおり、当初は1回だけの公演の予定だったが、この公演が大成功を収め、再演を望む声が大きかったことから2005年に『伊東四朗一座 〜急遽再結成公演〜喜劇 芸人誕生物語』(サンシャイン劇場)を上演することとなる。以後、伊東さんが参加しなかった場合は、「伊東→熱海」「四朗→五郎」ともじって三宅さんなどを中心に熱海五郎一座として毎年1回のペースで上演されている(図1)。