荒野のエッセイスト(映画編)

バックナンバー

第7回
タイの都で首長族に逢う

魅力的なツアーの広告を目にした。
「いにしえのチェンマイと
タイ最北の都チェンライ周遊5日間」
サーチャージ込みで約90,000円というお手頃価格で
「パドゥン族(首長族)」にも会えるらしい。

現地のガイドは正直だった。
「タイには首長族はいません。
首長族がいるのはミャンマーです」
といきなりカミングアウト。
「でも、本物の首長族に会えます」
僕は思わずズルッとこける。
つまり、タイの観光のために、
ミャンマーの山岳地帯から首長族を誘致し、
タイの政府が新しく村を作り、
タイの北部に住まわせているということらしい。

そのせいか村の中に入っていっても、
アジアならではの生活のニオイがしない。
ディズニーランドのテーマパークに
足を踏み入れたような感じ。
まるで音のないチキルーム。

その一画に首長族はいた。
首にコイルのようなものを付け、民族衣装を着た女性たちが、
柔和な笑みを浮かべ、観光客を静かに迎え入れる。
ある者は糸車を回し、ある者ははたを織り、
ある者は何もせずに座っている。
特別なことはなにもしない。
ただ日がな一日そこにいる。
存在することが、彼女たちのパフォーマンスであり、仕事である。

コメント