お取り寄せからみたニッポン

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第9回
栃木県・那須楮で作られる手漉き和紙「烏山和紙」

県内でたった一カ所、伝統的製法で和紙文化を支える

温かい手触りの和紙が好きなので、よく旅先で手漉き和紙の製品を買う。ハガキや一筆箋など、最近はデザインもモダンなものが増えている。全国の著名な和紙には、福井の「越前和紙」岐阜の「美濃紙」高知の「土佐和紙」などがあるが、栃木県にもなかなかシブい和紙がある。それが栃木県那須烏山市の「烏山(からすやま)和紙」だ。代表的なのは那須烏山市下境地区の地名に由来する「程村紙」。厚紙の至宝といわれ、国の無形文化財に指定されている。

この地域の和紙生産の歴史は古く、飛鳥時代に帰化人がその技術を伝え、写経料紙として正倉院に奉納された記録があるという。また、鎌倉時代には那須奉書として全国に知られたそうだ。近年では、明治34年に、同じ那須楮(なすこうぞ)を使って作られる茨城県無形文化財の西の内紙とともに、選挙用紙に指定されている。同じ那須楮が原料だが、漉き方に違いがあり、程村紙のほうが、厚く緻密な紙肌だという。江戸時代のビジュアル百科事典『日本山海名物図絵』にも「凡日本より紙おおく出る中に、越前奉書、美濃のなおし、関東の西の内、程村、長門の岩国半紙もっとも上品也。」と、西の内、程村の名称が記されている。

那須楮は、県境を隣接する茨城県北部大子町周辺で産出される楮。楮は、クワ科の落葉低木で、その皮が紙の原料となる。楮の繊維は雁皮や三椏に比べると長くて太いため、紙が破れにくく丈夫になる。本来、楮は南方系の植物なので、大子町奥久慈周辺が降雪のない栽培北限。そのため、楮の中では繊維が比較的短く光沢があるため、良質な原料とされ、各地の手漉き和紙の原料としても求められた。過去、那須地方の商人が全国に売り広めたため、那須楮というそうだ。この那須楮と那珂川の清流が、烏山の手漉き和紙を支えてきた。

現在、伝統工芸品の「烏山和紙」を生産しているのは、那須烏山市の福田製紙所だけ。同製紙所の前社長で、現在は、烏山和紙会館館長でもある県伝統工芸士の福田弘平氏は、長年、烏山和紙の普及に務め、さまざまな製品に挑戦し芸術性を高めてきた。今年10月に、栃木県の平成23年度の県文化功労者にも認定されている。過去には海外で紙漉きの実演を行ったり、全国手漉き和紙連合会会長、烏山町長や那須烏山市観光協会長などとしても活躍してきた。2000年には、全国の和紙関係者たちが組織する「2000年紀和紙委員会」会長として、烏山和紙など全国41都道府県、84産地の手漉き和紙などの和紙見本を1000点以上収録した『日本の心 2000年紀 和紙総鑑』(全12巻、1セット35万円。限定800セット)を完成。日本の和紙文化を支える功労者でもある。

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