内山悟志の悠々快適エイジレスライフ

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第43回
大人の社会科見学:酒蔵見学編

8,000リットル入るというホーローの仕込樽

さて、いよいよ蔵の中に入っていく。この日は酷暑日であったが、蔵の中の温度は外気より10℃ほど低いとのことで、ひんやりとして心地よい。蔵には、人の背丈よりも高いホーロー製のタンクがずらりと並んでいる(蔵の中が薄暗いため写真が鮮明でないのはご容赦)。
それぞれのホーローのタンクには、識別番号と容量が刻印されており、酒税の対象となっているため、厳密に管理されているという。1つのタンクは約8,000リットルとなっており、これは1日1合ずつ飲んだとしたら、120年分に相当するのだという。
最近では、どの酒蔵でもこのようなホーロー製かステンレスの仕入樽が主流だそうだが、小澤酒造では、昔ながらの木桶の仕込樽も使っているとのことだ。

樹齢300年の杉で作った木桶の仕込樽

ホーローやステンレス製の仕込樽は、消毒によって完全な微生物管理が可能だし、温度管理も容易だが、木桶の場合は木肌に醪(もろみ)が滲み込むため、それらの管理が何倍も難しいのだそうだ。
小澤酒造では、2002年に蔵の裏山から杉の古木を切り出し、桶を建造して江戸時代から伝わる木桶の酒を復活させたのだという。江戸時代から残る桶も修復し2台体制を敷いて、木桶仕込みの酒造りに挑戦している。美味しい酒を造りたいという酒蔵の弛まない探究心とチャレンジ精神には頭が下がる思いだ。
お酒は、玄米を精米して白米にし、それを蒸して蒸米とし、そこに種麹を混ぜて麹(こうじ)にする。さらに酵母を加えて酒母と呼ばれるお酒のモトが出来上がる。


蒸米と麹と酒母に仕込水を3回に分けて仕込んでいく製法を三段仕込または段仕込というそうだ。
ガイドツアーでは、原料となるお米、三段仕込によってできた醪を絞って清酒と酒粕に分ける上槽機などを見学した。

仕込み水が涌いている蔵の井戸

130年前の「明治蔵」、何千本にも及ぶこ熟成酒(古酒)が並べられた貯蔵棚などを見学しながら外に出ると、そこには洞窟のようなものがある。これが「蔵の井戸」の入り口だ。
酒造りにおいてお米と並んで重要な材料は水である。小澤酒造では酒蔵の隣から140メートルの横穴でつながった「蔵の井戸」から湧き出る中硬水と、4㎞離れた山奥にある「山の井戸」から引く軟水の二つの湧水を使用しているとのことだ。いずれも鉄分やマンガンといった不純物が少なく、日本酒の仕込み水には打ってつけなのでという。
蔵の井戸は、170年前にノミだけを使って人の手で掘られたのだそうだ。ここにも古の職人の魂と酒造りにかける執念を感じる。もう1つの「山の井戸」は隣接する「澤乃井園」で飲むことができる。

試飲で頂いた純米 封燗急冷詰『涼し酒(すずしざけ)』

さて、ガイドツアーの最後のお楽しみといえば、前回のビール工場と同様に試飲コーナーが待ち構えている。
今回は、4月中旬から8月の間だけ販売されるという生酒の「涼し酒」を試飲させて頂いた。名前のとおり、夏にぴったりのスッキリとして飲みやすいお酒だ。
酒蔵見学は以上で終了だが、1杯の試飲だけでは、とても終われない気分だ。澤ノ井ガーデンの中にあるきき酒処に駆け込み、「純米大吟醸(400円)」と木桶仕込の「彩は(いろは)(200円)」を楽しんだ。
澤乃井直営である「きき酒処」では、常時10種類程のお酒を用意しており、さまざまなお酒を少しずつ味わうことができる。きき酒には、5勺(90ml)のきき猪口がついており、ちっとしたお土産になって嬉しい。御岳渓谷の川のせせらぎを聞きながら、緑に囲まれた庭園で昼から日本酒を頂くことができ、極上の休日となった。さてさて、次は何を見学しようか。とても楽しみだ。

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