松本すみ子の「@シニア」

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第8回
「自分名刺」で自分アピール

定年後は今までの会社や肩書のことは忘れなさいと言われます。当然ながら、元の会社の名刺は使えません。実は定年退職者にとって、これはかなりつらいこと。自分は何者かというアイデンティティーがなくなってしまうからです。それなら、自分で新しい自分を表現する名刺を作ればいい。自分らしく生きる第一歩は「自分名刺」作成から始めるのはいかがでしょうか。

昔の名前で出ています

私がNPOを作ったばかりのころ、入会希望の方が訪ねてきたり、イベントを開催したりと、人と会う機会が増えたことがありました。初対面の方、特に男性とは、やはり名刺の交換から始まります。ある時、ある男性からいただいた名刺には、有名な商社のそれなりの肩書がありました。「まだ、現役で働いてらっしゃるのですね。現役のうちから仕事とは別のことを始めるのはいいことですね」とお話したところ、なんと、その紳士はこう答えました。「いや、実は4年前に定年退職していまして、これは会社の最後の名刺なのです」。

4年前! まさに「昔の名前で出ています」状態。きっと、現役最後の名刺を大事に持っていて、ここぞという時のために、少しずつ使っていたのでしょう。彼の気持ちは分からないでもありません。現役時代はこんな大企業会社で、それなりの役職に就いていた人間なんだという自負心。だから、相手にはそれなりの対応を受けたいというプライド。

しかし、見方を変えれば、そこには彼の寂しい現状が垣間見えます。自慢できる会社も肩書もなくしたというくやしさ。社会とつながっていたい、自分を認めてもらいたいという欲求。そして、4年もの間、自分を表現する方法も場所も見つけることができなかったという所在なさ。私はなんだかお気の毒になってしまいました。そして、早く、組織に評価されるのではなく、自分で自分を語れる道や術を見つけましょうよと言いたくなりました。

退職したら、会社のことは忘れるというのは正しいと思います。しかし、簡単ではありません。会社のことは忘れても、自負心やプライドや社会への欲求は消えてなくなることはないからです。むしろ、定年後こそ、一人の人間として本当の意味のプライドや自負心を持つべきです。そのためにも名刺が必要です。

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