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第15回
〈大腸憩室出血の内視鏡治療〉
輪ゴムで止血する低侵襲の画期的な治療法が普及中

お尻から突然の多量出血 高齢者は特に要注意

大腸憩室出血(だいちょうけいしつしゅっけつ)という病名。一般的には聞きなれないかもしれないが、救急外来を訪れる下腹部消化管出血の原因としてはかなりポピュラーな疾患だ。とりわけ高齢者においては、その頻度は20%※にも達しているという。
憩室は、大腸の壁の一部が外へと袋状に飛び出す病気。欧米では腸の左側にあるS状結腸憩室が多く認められるのに対し、日本ではかつて右側結腸(盲腸、上行結腸、横行結腸)の頻度が高く70%を占めていた。しかし、近年S状結腸憩室が増加してきており、右側型50-60%、左側型15%、両側に認めるものが20-35%程度とされている。

「患者さんは近年増えてきており、うちの病院でも年間50人ぐらい運ばれてきます。原因は食事の欧米化(食物繊維の摂取低下)と高齢化だと考えられています。高齢者だけでなく、若い人も多いですね。
また高齢者の場合は、心疾患などの血管障害をお持ちの方も増えてくるため、血液をサラサラにする作用のある抗血小板薬あるいは抗凝固薬、解熱鎮痛剤を内服されている方も多くいらっしゃいます。これらの服用も、憩室からの出血を起こす危険因子です」

と解説するのは聖路加国際病院・消化器内科の石井直樹医師。同院は消化管出血の内視鏡治療におけるオピニオンリーダー的存在だ。

「症状は、血便や出血性ショックです。腹痛を伴うことなく、突然お尻から多量に出血をして倒れるのです」(同)
※日本大腸肛門病学会公式サイトより

強力な輪ゴムで止血する お蔵入りしていた治療法に光

聖路加国際病院では、大腸憩室出血の疑いがある患者が運び込まれた際には、ただちに内視鏡による検査および治療を開始する。(検査と治療は同時に行う)
その治療法は実に画期的で、アメリカの内視鏡学会のオフィシャルサイトに掲載された石井医師の論文は、今や消化管出血に関する論文では世界で5番目から6番目にアクセスされているという。注目度は大きい。

「大腸憩室というのは穴が開いているように見えて、そこから出血するわけです。我々が導入した方法は、その穴自体に、周囲の正常な粘膜ごと輪ゴムをかけるやり方です。すると穴は大腸の方に飛び出してきて、出血していた血管と正常な粘膜とが輪ゴムでぎゅっと縛られ、出血が止まります。
この輪ゴムは、もともとは食道静脈瘤という太い血管からの出血を止めるための器具で、非常にしっかりしており、締める力も強力です。また縛り上げた憩室の部分(血豆のような感じ)は、時間が経つと自然にポロッと取れてしまいます」(同)

実はこの治療法、最初に試みたのは2003年、アメリカのマサチューセッツの医師だったのだが、世に広まることはなかった。

「理由は2つ考えられます。1つは、欧米では出血量が多い右の大腸からの出血が少ないこと。もう1つは内視鏡の技術的な問題。欧米は日本ほどには優れていないのです。恐らくそのせいで、この治療法は廃れたのだと思います」(同)

そんな、“お蔵入り”となっていた治療法に、石井医師らは光を当てたのである。

「かつて我々のところにも、どんどん患者さんが運ばれてきていましたが、従来のクリップで挟む方法では、止血できず手術が必要になるなど悔しい思いをしていました。日本人の場合、ショックを起こしたり、大量に出血を起こす右の大腸に憩室ができる割合が高く、新たな治療方法が求められていたわけです。

そうした状況を打ち破る方法はないかと探していたなかで、2003年の試みを発見しました。そこでどんどん症例を増やし、安全性も確立して、アメリカの内視鏡学会のオフィシャルジャーナルに投稿したり、アメリカの内視鏡外科学会のオフィシャルジャーナルに取り上げられるなど、少しずつ業績を積んできた結果、昨今、日本でも普及してきているという噂を聞いています」(同)

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