名医に聞く

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第20回
慢性腎臓病(CKD)2/2

血液透析率97%という日本の状況は特殊

最終的に、どうしても腎臓の働きが悪くなり、普通の人の5~10%程度にまで落ち込むと、透析をはじめることになる。末期腎不全という状態だ。

「皮膚の表面は新陳代謝によって毎日死んでアカになります。それはお風呂に入れば捨てられますが、体の中のアカ、老廃物はそうはいかない。体の中にたまったアカ、老廃物を尿毒素と呼びますが、それを捨てて体内をきれいにするのが腎臓で、末期腎不全になると体の中にどんどんアカが溜まってしまいます。処理する方法は3つあって、血液透析、腹膜透析、腎臓移植なんですね」

日本の場合、96~97%の患者が血液透析で、腹膜透析をしている患者はわずか3~4%にすぎないが、ヨーロッパでは20%ぐらい、香港は7割以上が腹膜透析だ。

「香港では国の政策として、腹膜透析が医学的に可能な場合は腹膜透析からはじめなさいということになっています。その理由は透析の設備がいらないので医療費が安くなること、腹膜透析から透析療法を開始し、その後に血液透析に移った人の方が長生きするとの報告もあるからです。
血液透析は専門の医療スタッフが行うので、非常に人件費がかかります。一方、腹膜透析は、腹膜透析液を一日4回ぐらい患者さんが自分で交換する。ようは点滴と同じで、覚えてしまえば誰にでもできるのです。病院みたいに透析の設備もいりませんしね。しかも生存率もあまり差がありませんし、社会復帰という点でも、腹膜透析なら比較的普通に仕事ができます。しかし、血液透析は週3回、4時間ほど病院に通わなくてはなりません。治療は4時間でも、通院時間をいれたら6時間ぐらいかかってしまう。1日おきに6時間というのは大変な負担ですよね」

治療と通院にかける時間を考えれば、圧倒的に腹膜透析に軍配が上がるが、残念ながら腹膜透析は、長くて5年ぐらいしか続けられず、それ以降は血液透析に移行しなくてはならない。

「腹膜透析は、血液透析になる前の準備段階と考えるといいでしょう。しかも、非常に意味のある準備段階です。
というのも、透析を今後20年やりますといった場合、はじめから血液透析で20年いくのと、はじめの5年は腹膜透析で残りの15年は血液透析というふうにするのとでは、ヨーロッパの学会の報告だと、後者の方が長生きするといわれています。
それはたまたま、最初から腹膜透析を選ぶような人は自立心が強く、治療にも前向きな患者さんが多かっただけかもしれません。 あるいは、腹膜透析は血液透析より腎臓を守る働きがあるので、それだけ体内の毒素が少なくなるというのもあるかもしれません。
また、腹膜透析を5年間やるのと、最初から血液透析をやるのとでは、病気と向き合う姿勢が違ってくるというのも考えられます。血液透析は医療スタッフにお任せですからね」

聞けば聞くほど、最初の5年間は腹膜透析にするべきという思いが強くなる。でもなぜ、日本では血液透析の割合が高率なのだろうか。

「日本で血液透析が増えた一因には、病院にとって血液透析の方が、収益性が高かったというのがありますね。
日本の透析医は、ほとんどが透析クリニックという形で開業していますから。せっかく導入した血液透析の機械をできるだけ稼働させたいという考えが働くのかもしれません。もうひとつは、腹膜透析ができる病院が少ないというのもあります。簡単な技術なので、研修を受ければすぐに対応できるんですけどね。やろうとする医師が少ない。
するとクリニックで患者さんが腹膜透析を希望しても、始められないということになります」

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