名医に聞く

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第28回
関節リウマチ。車イスが必要になる疾患の代表から、完全寛解となる病気にパラダイムシフト

生物学的製剤は両刃の剣。治療は専門医へ

早期診断や治療がむずかしく、医師にとっても治療しがいのない病気だったリウマチの治療風景に、近年、光明が差してきた。

「この15年間の進歩は劇的でした。これと同じだけのパラダイムシフトは、ほかの病気では起きていません」
そう話す宮坂医師の表情は、心なしか輝いて見える。

「精度が高い検査の登場で早期診断が可能になったことと、新薬である生物学的製剤などができたことによって、いまやリウマチの半分は進行を止めるだけでなく、早期の治療開始により症状が全くなくなる完全寛解に至り、残りも大半は、寛解しないまでも社会復帰ができるようになりました」

リウマチ以外の膠原病についても、たとえばかつては50%の生存率といわれた全身性エリテマトーデスは、現在、薬の組み合わせによって生存率が約98%に上がったという。
同分野の進歩は、まさに日進月歩なのである。

「ただ、よく効くだけに、生物学的製剤には感染症を起こしやすくなるという両刃の剣的な側面があります。必要な予防策を講じれば済むことですが、それはしっかりしたノウハウを持った専門医が不可欠です。使い方を間違うと、大変なことになりますからね」

宮坂医師は、日本リウマチ学会の理事長として、学会認定の専門医制度の普及にも尽力してきた。治療の研究や新薬の研究のみならず、日本全体の膠原病・リウマチ性疾患治療のレベルアップを牽引(けんいん)してきたのだ。

「リウマチは慢性疾患であり、関節炎を有することによって日常労作が障害されていることが多い病気です。このため、医師は単なる診療者ではなく、患者に対する深い共感と思いやりを持つことが必要です。
ちなみに、私は数年前に心臓弁膜症を患い、術後に身体障害1級となりましたが、その際、患者さんに対する思いやりの重要性を痛切に感じました」

かつては「治療効果が見えなくて、診たがる医師が少なかった」膠原病・リウマチ性疾患の診療を、今日のように劇的に進歩させた原動力は「思いやり」なのかもしれない。

名医のプロフィール

膠原病・リウマチの名医

宮坂信之医師(みやさか のぶゆき)

東京医科歯科大学医学部附属病院 院長
1973年、東京医科歯科大学医学部卒業。東京女子医科大学リウマチ痛風センター助教授、東京医科歯科大学難治疾患研究所教授、東京医科歯科大学第一内科教授、東京医科歯科大学膠原病・リウマチ内科教授、東京医科歯科大学副学長を経て、2011年より東京医科歯科大学医学部附属病院長。現在に至る。
日本リウマチ学会理事長。

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