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第34回
漢方による「次の一手」で、がん難民をなくす

余命5ヶ月と告知された患者が2年半以上元気に生存

「すべての治療が無効となり、緩和ケアを受けるよう勧められた進行がん患者が、あきらめきれず、藁(わら)にもすがる思いで、多数訪れます」と語るのは、がん研有明病院・漢方サポート科の星野惠津夫医師。
日本初のがん専門病院として70余年の歴史を有し、わが国のがん診療の最高峰の同病院で、毎月初診30人あまりを含む約250人の患者を診療している。

「手術、放射線治療、抗がん剤、ホルモン療法など、さまざまな治療が無効となり、主治医に余命を告げられた患者は、絶望します。特に元気で普通に生活できる患者は、がんとの戦いをやめ、座して死を待つことに耐えられず、ネットやバイブル本で新たな治療法を求める『がん難民』となります。
ところが西洋医学的治療がすべて無効となっても、漢方で次の一手が打てることは多いのです。西洋医学の限界は医学の限界ではないからです」と、星野医師は言う。

浸潤性膵管がんの手術後に、化学療法が無効であり、「平均余命5カ月、1年後の生存率10%」と告知され、緩和ケア科に通院しながら星野医師のもとを受診した女性患者は、頻回の下痢による消化吸収不良により体重が発病前に較べて10㎏減少していた。
星野医師は彼女に、激しい下痢を改善させるアヘンチンキに加え、大量の消化酵素製剤と胃酸分泌を減らす薬を投与した。
さらに漢方薬の補中益気湯(ほちゅうえっきとう)と牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)を投与したところ、だるさがなくなり、食欲が出て、体重は3カ月で3㎏増加した。

その後腫瘍マーカー(CEA)は減少し、気力と体力が回復。
生存率10%とされた1年目を楽々とクリアし、7ヶ月後に十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)と牛車腎気丸に変更した。現在術後2年半を超え、膵臓がんを克服できる可能性も出てきたという。

西洋医学と東洋医学の「いいとこどり」でがん患者を救う:

星野医師が現在がん研有明病院で行っているがん診療は、西洋医学と東洋医学の優れたところを組み合わせた、「いいとこどり」の統合医療だ。

西洋医学と漢方医学では、がん治療のターゲットが異なる。
西洋医学では、手術・放射線・抗がん剤などを用いて、がんそのものを直接攻撃するが、その副作用や後遺症として、食欲不振、嘔吐、下痢、口内炎などのさまざまな副作用が起き、患者は気力や体力が低下して元気がなくなる。

一方、漢方医学で「補剤」(癌証(がんしょう)の特効薬である漢方薬群)を用いると胃腸の働きがよくなり、食欲が回復して栄養状態が改善する。
さらに補剤は免疫系を活性化するため、間接的にがんを抑制する。
その結果、患者は気力や体力を回復して元気になり、がんと共存し、時にはがんからの生還も期待できる。

「西洋医学による強力な抗がん治療でがんの大勢をくじき、漢方薬により症状を緩和するとともに、免疫力を高めて残ったがんを処理する『統合医療』が効果的です」

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