人生を謳歌する糖尿病生活のススメ

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第10回
新薬で血糖値を下げ、白内障を手術。また本が読めるようになったYさんの場合

Q:Yさんに投与した新薬は、どのような薬なんですか?

牧田:2010年以降に使えるようになった、画期的な糖尿病の治療薬であるインクレチン関連薬の一種です。
インクレチン関連薬は、飲み薬(4種類)と注射(2種類)がありますが、飲み薬より注射の方が約2倍も血糖を下げる効果が優れています。
ビクトーザは1日1回の注射(朝食後)でよく、副作用が少ないことも特徴です。
インスリン治療をしている方は使用できませんから、これを止める必要があります。
インスリンを大量に使っている方(1日30単位以上)には無理ですが、少ない方にはお勧めです。
また、この治療で血糖値が安定したら、血糖値を測る必要はありません。
なぜなら打つ量は一定で、低血糖の心配もないからです。これも患者さんにとっては大きな魅力だと思います。
このビクトーザで効果が不十分の場合は、バイエッタ(イーライリリー社)という治療薬をご提案しています。
こちらは1日2回打つ必要がありますが、血糖を下げる効果は優れています。

Q:インクレチンについてもう少し教えてください。

牧田:インクレチンの系統の薬は2005年に欧米で使われ始め、現在では80カ国以上、のべ1000万人の方に処方されている、とても評判のいい薬です。
とくに、日本人には血糖改善の効果が高いのも魅力です。
これまでの糖尿病治療薬とは全く違う新しい方法で血糖値を下げる薬で、
1.低血糖を起こさない(安心して飲める)
2.膵β細胞を保護し、機能を回復する(軽い糖尿病の人は、この薬で治る可能性が出てきた)
3.体重の減少が期待できる(やせている人がさらにやせるということもない)
などが特に大きな特徴です。

Q:インクレチン関連の飲み薬には、どういうものがありますか?

牧田:よく使われるのはジャヌビアですね。
1日1回の服用でよく、副作用が少ないことが特徴です。
現時点では使用できる条件がやや厳しく、1.薬を使っていない方、2.SU剤(オイグルコン、アマリールなど)、チアゾリジン(アクトス)、ビグアナイド(メルビンなど)のいずれかを使用している方に限られます。
インスリン治療をしている方は使用できません。
確実にHbA1c値が約1%下がり、安全性の高いとてもいい薬です。

副作用は食欲不振(このためにダイエット効果がある)、胃腸障害、薬疹(湿疹が出る)などがあります。副作用があるかなと感じたら、お薬を止めても構いません。
ジャヌビア以外にも、同じインクレチン関連薬ではネシーナやエクアなどの薬も発売されています。

Q:患者さんの中には「薬には頼らずに治したい」と、薬物療法に抵抗を示す方も多いのではありませんか?
薬を長く続けると、副作用が心配という声も耳にします。

牧田:そうですね。でも、いい薬は専門医の指導のもとで正しく使えば、心配ありません。
「正しい治療」とは、医者任せではない治療です。
薬による血糖値への効果や体調の変化など、身をもって理解できるのは患者さん本人ですからね。
Yさんが以前かかっていた先生のように、一方的に薬を出し続けるのは問題だと思います。
同時に、与えられるままに服用し続けているのもいけません。
Yさんは、ご自分で注射を打つようになってから、変わりましたね。
ヘモグロビンA1c値の変化も重要ですが、私は治療に対する姿勢の変化は重要だと思っています。

Q:それにしても、糖尿病治療の進歩はめざましいですね。

牧田:本当にそうですね。
さらに嬉しいことに、米国では何と1週間に1度注射すれば良いという画期的な治療薬も発売されます。
糖尿病は、患者さんの数が急増していることもあり、研究も進み、良い薬がどんどん作られてゆきます。
新しい薬が加わることで、今後、今より楽に確実に血糖コントロールができるようになるでしょう。
患者さんにはそれまで、合併症を悪化させないよう、がんばって治療を続けていただきたい。
糖尿病になっても、人生を謳歌(おうか)することは充分可能ですからね。

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