文化とアートのある暮らし

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第6回
~音を織り、織りから聞く~

そのようにして、西陣は世界に通用するように近代化し、その後も挑戦が続きます。
ジャカードを用いて製織する西陣の織物では、まず正絵(しょうえ)と呼ばれる下絵を制作し、その描画(下絵)を方眼紙の上に書き写します。次に、どの緯糸でどこの部分を織るのかを決定する設計図を職人が 手作業によって紋紙の制作を行う(のちにパンチカードに経糸を持ち上げるのに必要な穴をあける)のですが、これらの設計の工程をコンピュータで行うという挑戦が始まります。
ちなみに「ジャカード織機」は、現在のコンピュータの母と言われ、機械式のコンピュータであると言われているようです。

1970年代後半、当時のコンピュータでは表示される色数も少なく、織物の多彩な表現はできず、描画機能はほとんど未開発でしたが、西陣織の用に足るコンピュータの織物設計を開発しよう!という提案に一番に同意し行ったのが、紫紘株式会社の初代織匠である山口伊太郎(1901~2007)でした。

当初、「費用がかかりすぎる」とか、「コンピュータで作ったようなもんに、心のこもった作品はでけん」という周囲の意見もあったようですが、「新しいことはやってみんとわからん。」と山口氏はコンピュータの導入に積極的な態度で取り組みます。当時、西陣織の世界では最も年配にあたる山口氏による挑戦です。

このようにして、織物の世界にコンピュータを導入したことで、情報技術の世界と伝統が結びつきます。

これらの過程を知り、ピアノと織機が共通するものが多くあることに気づくのです。
ピアノは、数多くある音をある限られたシステムで集約し、12鍵盤を1サイクルの楽器にし、多量生産されていきます。西洋を中心に栄えたクラシック音楽が近代化し、「ピアノ」が今のスタイルに完成したのちに、日本国内に明治時代に多量に輸入されます。
さらに共通点を感じるのは、1970年代頃に発展した自動演奏のピアノです。穴のあいたロール紙が内蔵されたからくりによって巻かれることで、ピアノの内部に仕組まれたハンマーが反応し、音が鳴ります。のちにこれらの仕組みはコンピュータに代わり、からくりは小型化、現在はほとんど無形化しています。

ピアノとコンピュータの類似性に思い当たる点が多いと同時に、織物とコンピュータの類似点があるのであれば、ピアノと織物は必然的に繋がるでしょう。また、ジャカード織機がコンピュータの母であると同時に、ピアノもコンピュータの前身と言われていました。情緒を描写する織機、情緒を歌うピアノですが、情報技術とも結びつくのです。

次回は、私が見た現在の西陣織の魅力と私的プロジェクトについて写真と共にご紹介いたします。

写真提供:紫紘株式会社(京都市上京区大宮寺ノ内上ル西入東千本町411)
参考文献:「山口伊太郎 源氏物語錦織絵巻」(2009)

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