写真家・秋野深のやさしい旅のフォトレッスン

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第31回
魅力あふれる春の田んぼ ~静岡県・松崎町(西伊豆)~

ゴールデンウィーク頃になると、日本各地の水田にいよいよ水が入って田植えの準備が始まります。日によっては肌寒かった季節が終わり、初夏にかけて暖かさが少しずつ増していく・・・梅雨の始まりまでのこの期間は、1年で最も過ごしやすく気持ちの良い季節ではないでしょうか。

今回は、そんな心地よい5月に美しい表情を見せてくれる、静岡県・松崎町の田んぼの魅力をご紹介します。

■水田に空が反射する美しい情景はこの時期ならでは!

山がちな日本では棚田は珍しくありません。ですが、「海が見える棚田」となるとどうでしょう? それほど多くはないように思います。松崎町の石部(いしぶ)の棚田は、眼前に駿河湾を見渡すことができる斜面に広がっています。決して広大な斜面ではなく、棚田の1枚1枚も大きくはないため、小さなパレットを斜面に敷き詰めたような繊細さが魅力です。

さらにこの季節は、水面に空が反射するので、上から見下ろす棚田の情景は格別です。石部の棚田はちょうど西向きの斜面に位置しているので、夕刻の時には、いくつもの小さな水面が空の変化に呼応するようにその色彩を変えていきます。

苗が育ち始めると、どうしても水面は見えづらくなるので、1年のうちでもこの時期だけに見られる水田の魅力です。

【写真1】
【写真1】

【写真1】を撮影した日は、色濃い夕焼けにはなりませんでしたが、棚田が淡い茜色に染まりました。

ぜひ、苗が育ってしまう前に、「水面の反射」に着目して水田を観察してみてください!

■田んぼに咲くカラフルな花々!

春の松崎町の田んぼには、また別の魅力があります。

農閑期の田んぼに様々なお花が植えられた「田んぼを使った花畑」があるのです。

1つ1つのお花は小さいので、お花の美しさとお花畑が広がる様子を両方とも1枚の写真で表現するには捉え方の工夫が必要です。そこで、レッスン6 の内容を思い出してほしいと思います。随分前の連載なので(笑)、ぜひもう一度目を通してみてください。

広角ズームを使って撮影すれば、広い範囲が写りますが、それだけでは1つ1つの花は写真の中で本当に小さくポツンとしか写りません。

そこで大切なのが、広角を使って全体を写しながらも、強調したい被写体に近づくことです。

【写真2】
【写真2】

そうすると、奥ゆきを感じさせながら、手前に写ったものの迫力も表現できます。 「広がりのある光景なので、広角で広く広く・・・」とだけ思っていると、この手前のものを強調する発想を失ってしまいがちです。 実際にこうした現場にいるときには、目の前のお花の色の美しさも目にとまっているでしょうから、「広く捉えるとしても、一番強調したい部分はどこか・・・」と心がけていると大丈夫だと思います!

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