荒野のエッセイスト(音楽編)

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第4回
若き父の歌うジャズ


笈田敏夫 日本ジャズ創生記 vol.2
¥2,500(税込) KING RECORDS

僕の父親は笈田敏夫という名前のジャズ・シンガー。
60歳以下の人は知らないかもしれないが、ジャズ・シンガーの草分けと呼ばれ、紅白歌合戦にも1953年から連続7回出演を果たし、スウィングジャーナル(音楽専門誌)の人気投票では男性ジャズシンガー部門で、通算26回第一位を獲得している。

一般的には、「嵐を呼ぶ男」で石原裕次郎の仇役のドラマー役を演じた男、と言った方が通りがいい。

我が家に地方からお手伝いさんがやって来た時、上野駅に迎えに行った父の姿を見て、「ギャーッ!」と叫んで逃げ出したという逸話も残っている。
東京を知らないウブな娘にしてみれば、裕ちゃんを痛めつけた悪者が自分をさらいに来たと思い、恐怖に震えたのだろう。

そんな素朴な時代に吹き込まれた歌の数々がよみがえるのが1995年に復刻された「日本ジャズ創生記vol.2」だ。

キャッチコピーは……
日本最初の本格男性ジャズ・ボーカリスト笈田敏夫。
最も初期の吹き込み(SP)を復刻した貴重盤。

これを聞いて僕はかなり驚いた。
父は日本語の歌は決して歌わないと聞かされていたのだが、何と15曲中13曲に日本語の歌詞が付いている。しかも10曲は父の訳詞である。
僕は父が日本語で歌うところは見たことがなかったし、ましてや訳詞などをしているとは思いもよらなかった。

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