荒野のエッセイスト(音楽編)

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第9回
手嶌葵
The Rose~I Love Cinemas~

家に帰ってじっくりと聴く。
一曲目はベット・ミドラー主演の「ローズ」のテーマ。
優しさに満ちたふわっと包み込むような歌声……。
なんだか少々物足りない。
単に物足りないとは少し違う不思議な感覚。

レストランの料理に慣れた人間が、自然食品を口にしたような物足りなさ。
上品な薄味とも言い換えることができそうだ。
エキセントリックな印象のある「雨にぬれても」も、
高音部分・一生懸命営業中!という風情の「ロミオとジュリエット」も
この女性歌手が歌うと、
ゆらり、ほんのり、のほほん
となってしまうのだ。
とてつもなく変則的で、日本人には手が届かないと思われていた
「バグダッド・カフェ」の挿入歌「コーリング・ユー」も
肩の力を抜いて、サラッと歌っている。
これを聴くと、僕でも歌えるかも、という気分になる。
むつかしいことを簡単そうにやる。
フレッド・アステアのダンスがそうだった、
というと誉めすぎか……。
残念なのはすべてが英語だったこと。
彼女はきれいな日本語で、邦楽を洋楽のように歌う
という類いまれなる特性がある。
次は日本語のカバーが聴きたい。

その時は選曲を僕にやらせてくれないかな……。
「花の首飾り」「いいじゃないの幸せならば」「津軽海峡冬景色」
などが流れてきたら間違いなく、僕は泣くね。

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