お取り寄せからみたニッポン

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第11回
長野県・美しい髪をとかすお六櫛

江戸時代から人気の土産物だった

和風モダンが女性たちのファッションにすっかり定着し、和装小物も現代的な製品が増えてきた。そうした流れの中で、見直されているもののひとつに、櫛がある。髪を美しく保つ椿油との相性も良い。
姪にも、成人式のお祝いになにが欲しいか聞いてみると、木の櫛が欲しいという。腰まで伸ばした長髪の彼女は、プラスチック製の櫛だと、静電気が発生して、からまってとかせないのだ。小型で薄くて軽い櫛は、ブラシのようにバッグの中で場所をとることもない。そこで、長野県の伝統工芸品・お六櫛(おろくぐし)を贈ることにした。

お六櫛は、長野県木曽郡木祖村薮原で生産される櫛だ。その名称は、伝説によると、櫛を作った女性の名前に因んでいる。
櫛が作られるようになったのは、江戸時代のこと。中山道の中ほどに位置する薮原宿は、飛騨街道の追分としても、交通の要所として栄えていた。中山道妻籠宿の旅籠屋の娘・お六は、持病の頭痛に悩んでおり、御嶽大権現に願掛けをしたところ「ミネバリで櫛を作り、髪をとかせ」というお告げを受けた。そのとおりに櫛を作って髪をといたところ、頭痛が治ったのだという。
こうして作られたミネバリの櫛が、中山道の名物として、また御嶽信仰や善光寺参りの土産物として広く知られるようになり、明治初期には東京・京都・大阪など各地に出荷されていたという。

原料の樹木は、ツゲ(黄楊)のものもあるが、ツゲより折れにくいミネバリ(峰棒)で主に作られてきた。
ミネバリとは、なかなか聞いたことがない樹木だが、櫛に用いるほか、印鑑の材料や、ソロバンの玉、ピアノの鍵盤の材料などにも使われているという。山の岩地から峰に張り出すように育つカバノキ科の落葉高木で、学名がオノオレカンバ(斧折樺)。“斧が折れるほど硬い”丈夫な目の詰まった木で、その緻密な組織はねばりがあり、狂いも出にくいため、櫛の歯のような細かい加工に適した材料なのだ。

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