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第4回
山形県・大胆にして繊細な天童の将棋駒

美しく流麗な草書体が特徴

最近、将棋を題材にした、小説やマンガが目につく。とくにマンガでは、これまでにも『月下の棋士』(能條純一)や『5五の龍』(つのだじろう)などの名作が描かれたり、個性的な表現でメイド服の女性棋士を登場させドラマ化もされた『ハチワンダイバー』(柴田ヨクサル)などがある。中でも、棋士の対局時の心情描写や人間模様を繊細に描く少女マンガ家・羽海野チカの『3月のライオン』は、多数のマンガ賞を受賞。その影響で女性や若い人たちにも将棋ファンが増えつつある。最近発売された6巻には、山形県の天童桜祭りの人間将棋の描写も登場。というわけで、今回は、山形県の将棋の駒を見てみよう。

山形県・天童で将棋の駒が作られるようになったのは、江戸時代に遡る。当時の天童織田藩は、織田信長の末裔。本能寺の変で自害した信長の跡を継いで、次男の信雄が率いた織田家は、小幡藩(群馬県甘楽町)や高畠藩(山形県高畠町)を治めた後、天童に入って天童織田藩となったという。しかし、わずか2万3千石の小藩だったため、常に財政難に悩まされ、藩財政の立て直しに取り組んだ吉田大八が、将棋は戦闘を練る競技で、武士の面目を傷つける内職ではないと、家臣の救済策として将棋駒の製造を奨励したという。
それが現在では、日本の将棋の駒の約95%にあたる年間約55万組を生産する産業となっている。

将棋の駒の原材料は、木と漆だ。木地は「木目」や「木肌」が大切にされ、形は欠けていなくても木目によっては、駒にされないものもある。高級品には東京都の御蔵島産や、鹿児島・薩摩産などの本黄楊が用いられる。海外産の黄楊は、タイやカンボジアのシャムツゲで、中級品用の原木だ。そのほか、まき、ほお、はびろ、あおか、いたやなどが使われる。
漆は、文字の部分に用いられる。古くは墨で書いたものもあったそうだが、現在ではほとんどないそうだ。印刷による押し駒から、書き駒、彫り駒、彫埋駒、盛上駒と価格が高くなっていく。書き駒は、漆で直接文字を書いたもの。書体は楷書体と草書体があり、天童の駒は流麗な草書体が特徴となっている。彫り駒は、機械彫りと手彫りがある。彫埋駒は、彫り上げた将棋駒を漆で埋めてから瀬戸引きして研ぎだしたもので、表面が平ら。この彫埋駒に蒔絵筆で漆を置き、文字を浮き出たせたのが盛上駒で、プロのタイトル戦などに使われる高級な将棋駒となっている。

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