ライターHの“デジモノ”放談

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第14回
ジョブズの伝記で“読書スタイル”を改革する

先日、電子書籍の底力を実感させられる作品が発売された。発売後、わずか10日間で100万部を突破したアップルの前CEO、故スティーブ・ジョブズ氏の公認伝記「スティーブ・ジョブズ I」(講談社)と「スティーブ・ジョブズ Ⅱ」(同)だ。これだけ注目される作品が、紙と同時に発売されるのは初めてのこと。紙の書籍に対して、電子書籍版がどれくらい善戦するかが注目された。

結果的には紙の書籍の方が多く出ているようだが、大手書店チェーン「紀伊國屋書店」の直営ネット書店「BookWeb」によると、発売日の10月24日と翌25日の電子書籍販売数は1584冊。対する紙の書籍は3377冊で、販売数に占める電子書籍の割合は5割弱となった。ただし、「発売初日は紙の書籍に匹敵する売り上げだった」とアナウンスしている。

さらにiPhoneやiPad用アプリを販売する「App Store」でも、トップセールスランキングに面白い動きがみられた。伝記が発売された10月24日、紀伊國屋書店がリリースする電子書籍アプリ「Kinoppy」(キノッピー)がゲームアプリを押し退け、第一位になったのだ。「Kinoppy」からは、ジョブズの伝記以外も購入できるのだが、一位に押し上げた原動力がジョブズの伝記だったことは疑うまでもない。これまで「電子書籍は紙の10分の1しか売れない」などと揶揄(やゆ)されていたが、注目作品を適切なタイミングで提供すれば、販売につながることを証明したのだ。

Macで誰もが扱えるパソコン文化をつくり、iPodで音楽の楽しみ方を変え、さらにiPhoneやiPadと現代のライフスタイルに大きな影響を与え続けてきたスティーブ・ジョブズ。そんな彼も自分の伝記が、日本国内で電子書籍に大きな一石を投じることになろうとは、思ってもいなかっただろう。

紀伊國屋書店が運営するネット書店「BookWeb」。同社では電子書籍アプリ「Kinoppy」という電子書籍アプリをWindows、iPhone/iPad、Android向けに提供している。同サービスの会員アカウント(メールアドレス)とパスワードでログインすると、購入した電子書籍をダウンロードできる

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