“その時”では遅い相続の話

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第11回
贈与するのも大変なのです

最近は、贈与税の特例もあり、マイホーム購入資金を親に援助してもらうなど、贈与がとても身近になっています。親の財産は、将来、親から自分に相続されるお金ではありますが、親が健在のうちは自分のものではありません。
そんな場合、「贈与」をしてもらうことで、一番必要なときに必要なお金が手に入ることになります。これが「贈与」の一番のメリットと言えるでしょう。
しかし、「贈与」は、いろいろともめるケースが多いのも事実です。親子関係が良好なときは「お前にあげる」と言われていたのに、疎遠になったとたん「あの話はなし」ということもあります。

父から、「この家をおまえにやる」と言われたが、
書面をもらわなくていいのか?

「贈与」は書面がなくても、成立します。でも安心はできません。書面でないものは実行されるまでは、いつでも取り消されてしまうのです。
贈与とは、自分の財産をタダで相手にあげる意志表示をして、相手がこれを承諾することによって成立する契約を言います。書面がなくとも、口約束だけで成立してしまうのです。
書面がある場合と無い場合の、両者の違いはというと、書面がある場合は、普通の契約と同様に、贈与する人の意志だけでは取り消すことはできませんが、書面がない場合は、その実行が終わらない限り、いつでも取り消すことができるということです。
贈与などにより、個人から財産を受け取ったときは贈与税がかかりますが、その時期についても書面の有無がポイントになります。
書面があれば、贈与契約の効力が生じた日が明確に分かるため、そのときに贈与税がかかります。口頭の場合は、贈与が実行された日になります。また、贈与の日がはっきりしない場合は、所有権等の登記または登録があったときとされます。
このように、贈与は口約束でも成立しますが、多額の贈与を受ける場合などについては、法律上も税務上もきっちりとした書面にしておくことが重要といえるでしょう。

かなり昔のことだが、自宅の頭金を親父に援助してもらった。
昔の話だし、生前の贈与と相続とは関係ないよね。

誤解している方が多いのですが、大いに関係があります。
法定相続人が、亡くなった人から結婚や生活のために多額の資金援助を受けていたり、遺言で贈与(遺贈といいます)を受けることを「特別受益」といいます。公平な相続を行うためには、この部分に目をつぶることはできません。あなただけ自宅資金の頭金を出してもらっているのに、相続で遺産を分割するときには兄弟みな同額では、ほかのご兄弟も納得しないでしょう。
しかし実際には、すべての相続人について、誰がいつどれだけ贈与を受けたかを調べることはできません。そして、生前贈与のすべてが「特別受益」になるわけではないので、その判断でももめることもあります。
結婚したときに親からもらった贈与(持参金、新居や花嫁道具など)や生活のための贈与(留学費用や自宅取得資金など)は「特別受益」となる例ですが、実際に特別受益となるか否かは、金額や資産・生活の実態などを見て判断されます。
このような事例は、もらったときには「おめでたいこと」ともめないのですが、相続のときになると、もめることが多いのです。

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