実例で学ぶ事業承継のポイント

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第8回
兄弟で事業承継する時の注意点

今回は、兄弟で事業を承継する場合にオーナーが気を付けるべき点について考えてみたいと思います。

事業承継を行いたいのに、継がせる相手がいないという悩みを持つオーナーも多い中、「息子が2人とも入社している」という恵まれた環境のオーナーもいらっしゃいます。もちろん、事業承継しやすい環境ではありますが、難しい面もあることをいつもお伝えするようにしています。
あくまで個人的な見解ですが、歳の近い兄弟が父親の会社に入った場合、特に晩年になって、うまくいかなくなるといったケースが多いように感じています。

皆さんもご存知のように、同じ家に生まれ同じ親に育てられた兄弟でも、性格ひとつとっても異なるものですし、長年培われた兄弟の関係も時間の経過とともに結構変わってくるものです。「仲がいい兄弟」、「俺は弟を守る」、「俺は兄貴を尊敬している」と言ってはばからない兄弟の関係がずっと続くとも限らないのです。

多くのケースを見てきた私なりにその理由を分析してみますと、「兄と弟のお互いをみる見方が食い違ってくるため」ではないかと考えています。

兄はいつまでも親族である弟に対して、困ったときは面倒を見てやらねばならないと思っているものです。事業承継においても、「自分は長男だから」と家督相続的な観点を持っていて、家業を継ぐことに一種義務感に近い責任感をもって会社を継いでいこうとしています。そのため、知らず知らずに、弟を上から見下ろすような考え方や態度が出てしまうことになります。つまり、「上から目線」になってしまうということです。

一方、弟は「成人したら、兄と自分は同じ大人なのだから対等である」と考えて、仕事の力量も兄と比べてまったく見劣りしないと思っているのです。それどころか、たった1年や2年、早く生まれてきただけの違いなのに、兄が社長で、なんで俺がその下に仕えなければならないのだと不満に感じることもあるのです。
そんな気持ちも父親が生きている間は何とか「封印」されているものの、父親がいなくなり、また遺産配分などで差がついたりすると抑えることができなくなり、兄弟関係に亀裂が生じていくわけです。
そして、その亀裂は徐々に広がっていき、晩年になって父親の興した会社の経営権を巡って争ってしまったりすることになるケースも多いのです。

こうならないためにはどうしたらいいのでしょうか?
皆様ご存知の「毛利元就の3本の矢」の話があります。あれはまさに「戦国時代の事業承継」の話なのです。「3人が力を合わせ毛利家を強くして、発展させてほしい」というオーナーから承継する者への意志を伝えるシーンなのです。「親の考えを子供達に確実に伝える」ということは、時代を超えた事業承継の共通項です。
しかし、兄弟が力を合わせて・・・という「3本の矢」の逸話が、すべての事業承継に有効かというと、それは疑問があります。兄と弟に対して、公平に会社を分けることはできません。ここに差異がでてしまうのは避けられないことだからです。

「弟は常に兄の立場を超えることはないのだ。将来に渡って兄を支える立場になるがそれでいいか? また引退するときも、兄弟揃って引退することになるが、それで納得できるか?」ということを常に確認するべきと考えます。弟が会社に入社してからもそれを続けます。そして、弟がそれに納得できない心境に至った時点で、弟を経営から離し、別の形で処遇する方法を考えなければいけません。つまり、いざという時に、この「処遇」ができるか否か・・・。あえて「1本の矢」に絞るという手法も含めて、事業承継を考える必要があることを覚えておいてください。
この場合、弟は「損な役回り」かもしれません。しかし、自らの立場を理解して、兄を支えてうまく行っている会社もまた多くあるのです。揉め事の種は着実に摘み取っておくことをオーナーは意識すべきと考えています。

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