実例で学ぶ事業承継のポイント

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第1回
事業承継の真髄とは

私は中小企業の事業承継コンサルティングを天職と思って仕事をしております。銀行員をやりながら天職が見つかり本当に良かったと、この巡り合わせに感謝しています。

なぜ天職と思えたかというと、中小企業オーナーの人間としての魅力に惹かれたからだと思います。オーナーは皆さん個性的で、誰一人として同じタイプの方はいません。ですから、お会いするオーナーの数が増えれば増えるほど、私はより多くの新鮮な刺激を受けることができます。

しかし、そんなオーナーにも、誰に相談したらよいかわからない悩みがあります。それが「事業承継問題」です。事業承継は、まさに人生模様そのものです。その過程では、人間の煩悩がさらけ出され、少しのボタンの掛け違いで、骨肉の争いという修羅場になることもあります。だからこそ、そうならないように、慎重に準備をし、手を打たなければならないのです。

体裁を整えるだけでは不十分

晩年になって、あるオーナーはこう思います。

「自分は会社の先頭に立って一生懸命働いてきた。自分を機関車に例えれば、自分の後ろに、ものすごく長い列車(社員や取引先)が連なっていて、さらにその列車には社員の家族や取引先の家族が乗っている。それを今さら切り離すわけにはいかない。でも自分も生身の人間である。いつかは終わりが来る。とはいえ、社内や家族に弱音を吐くわけにはいかない・・・」

ことの大小はあるものの、多くのオーナーはこのような心境であると推測されます(自分は不死身だと思っているオーナーも若干いらっしゃいますが・・・)。創業から、とにかくがむしゃらに働き、いくつもの苦難を乗り越え、やっとここまで来たのにオーナーの苦悩は続くわけです。これまでは売り上げの向上や資金繰りなど、自分の会社を良くすることだけを考えていればよかったのに、自分の引退後は、事業承継の成否が、社員や取引先などの多くの人々に大きな影響を与えてしまうことに気が付くのです。

しかし、そうした思いも日によって強弱があります。なぜなら、「自分の死」を前提とする中長期的な課題についてあれこれ悩み時間を費やす前に、目先の商売に関するあらゆる決断や決済を優先せざるを得ないからです。それで結局は「気にはなっているものの、ついつい先送り」となってしまうのです。

ですから、「事業承継問題」は、オーナー単独では、解決するのが困難なのです。この問題をよく理解した第三者がオーナーを手伝って、時には背中を押してあげなければいけないのです。

オーナーの方にまず知って頂きたいのは、「事業承継」は、社長という立場を次の者に法的に問題なく譲ることだけではないということです。いくら体裁を整えても数年後に廃業したり、買収されたりしたら、事業承継ができたことにはなりません。会社が永く継続し、会社を取り巻く多くの人々の幸せを守ることが事業承継の真髄となります。

本コラムでは、さまざまな事業承継の事例をベースに、そこから、学んだことをご紹介していきたいと考えています。ただし、「守秘義務」の関係上、本人と特定できないようデフォルメしていることをあらかじめご承知おきください。

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