実例で学ぶ事業承継のポイント

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第2回
中小企業は、同族承継をまず考えよう

同族承継には賛否両論がありますが、私は賛成です。その理由は幾つかあるのですが、そのうちの一つに中小企業の場合は、後継者となる人材を同族以外から求めるのが厳しいということが挙げられます。
以下は、私がお会いした人材確保に苦しむオーナーの言葉です。

Aオーナー:
「うちの会社の新人研修では、『会社を休むときは、まず会社に電話するんだよ』というところから教えています。そういう人材しか集まらないのです」

Bオーナー:
「うちの会社には入社試験というものがありません。基本的には応募してきたら全員採ります。来るものを拒んでいたら誰も来ません」

Cオーナー:
「自分の息子(某私大卒)と同レベルの人材を公募採用したいのだが、まず無理」

Dオーナー:
「非同族の社員に会社を君に譲りたいといったら『絶対にいやだ。それなら辞める』と言われてしまった」

継いでくれる子に感謝を

このように、通常の社員の確保にも苦労しているのですから、後継者候補となるとなおさら難しいのが現実です。この傾向は会社の規模が小さくなればなるほど顕著に現れます。したがって、親の会社を継ぐために入社してきた子がいたとしたら、むしろ感謝・歓迎しなければならないのです。
オーナーの子供は、これまで事業を成し遂げてきたオーナーのDNAを引き継いでいるのですから、後を継げる可能性は十分あるはずです。したがって、まずは同族承継を検討してみることが重要です(もちろん、同族以外の人材が確保できて育っていれば話は別です)。
しかしながら、子供が全て後継者としての資質を備えているかというとそうではありません。創業者はハングリー精神旺盛で不屈のパワーを持っていますが、二代目以降は生まれながらのオーナー家ですので、しなやかさや品のよさを身につけているかもしれませんが、その代わりに忍耐力に欠けるなど、成長過程によって親とは違う個性が出てくる場合もあります。
また、親を上回る能力と学歴を身につけて大企業のエリートとして活躍したり、全く別の価値観を持って、学術や芸術の世界に入ってしまうケースもあります。あるいは、家庭を顧みず、仕事のことばかり考えるオーナーの姿を身近に見てきた子供が、事業を引き継ぐことに躊躇することも少なくありません。傍から見れば、せっかく社長になれるのに・・・と羨望のまなざしで見られるかもしれませんが、意外にすんなりいかないこともあるのです。
最近では少子化が進み、同族継承が難しくなっている現状もあります。昔はこの子がだめなら、別の子という対応ができたのが、今は子供の数が少なくなり、選択肢が狭まっています。
このような状況ですから、同族継承を実行するには、これという子に目をつけたら、時には熱く仕事のことを語り、時には背中で働きぶりを示すなど、日頃から、その子が後を継いでもいい、と思うように接することが肝心です。

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