文化とアートのある暮らし

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第4回
「秋の夜に」のこと

秋が過ぎ去り、季節はイルミネーションが色づく12月です。
今年もどんなイルミネーションが街を明るくしてくれるのか、とっても楽しみですね。

肌寒くなってくると「秋の夜に」と題した公演を行った昨年のことを思い出すのですが、気がつけばもう師走。今年の秋はあっという間でした。

「秋の夜に」は、渋谷にある「Last Waltz」 という会場で行った一晩限りのイベントで、サン=テグジュペリ(1900-1944)というフランスの作家の3作品をテーマに繰り広げた会でした。サン=テグジュペリは、『星の王子さま』で有名な作家です。

女優の村井美樹さんとデザイナーの酒井景都さんとご一緒した会で、当初、イベントを構想していた時に題材を何にするか、村井さんと書店に出かけた日のことを思い出します。
並んでいる流行の本を見たり、歴史小説を見てみたり、その中で目についたベストセラーの『星の王子さま』を手に取ったとき、村井さんにとってこの作品が、将来役者の道を目指すきっかけとなった一つの本だったとのことでお話し下さり、ケイトさんも幼少期に読んだ思い入れのある作品で、何かご縁があるかもしれないとの思いでこの作品を題材にすることにしたのです。
『星の王子さま』は、操縦士の「ぼく」がサハラ砂漠に不時着し、小惑星からやってきた王子と出会うことから始まります。その王子の星は家ほどの大きさで、そこには3つの火山と、根を張って星を割いてしまう程巨大になるバオバブの芽と、よその星からやってきた種から咲いた1輪のバラの花しかなく、ある時、王子が美しいとおもって大切にしていたバラの花とけんかしたことをきっかけに、他の星の世界に旅に出るのです。
一見おとぎ話のような本ですが、不時着から生きて還ったにも関わらず、6年前の悲しみを忘れられず、そのときのことを語るのもとても悲しい、と本に書かれていることもあり、作者の辛かった心の中が反映されている気がします。このお話は、リアルに基づいた深い大人の経験を読み解くことができるでしょう。

何度か打ち合わせと練習を重ねて、『星の王子さま』だけでなくサン=テグジュペリの他の2作品『夜間飛行』『人間の土地』も交えて村井さんの構成による朗読と、寒川のオリジナルピアノ曲にケイトさんのタイトル・作詞が付き、歌の曲としてできたものを交互に展開。音楽劇のような、朗読劇のような、そしてニューヨーク在住の作家田口一枝さんのキラキラした光の世界を舞台にデザインし、光が魅せる幻想的な空間とともにどこかせつなくはかなく美しい舞台が仕上がりました。


音楽は、ショパン作曲のピアノソロ作品「24の前奏曲」の第16番から始まり、この曲の軍歌を想像させるような左手の響きリズム、鬼気迫る迫力と、そのあとには「冷たい月」「足音」「指の先」とケイトさんとの歌とピアノ伴奏で展開していきました。
懐かしいようなせつないような、汚れのないケイトさんの美声はサン=テグジュペリの心を表したかのよう。また、村井さんの朗読は、飛行中の鬼気迫る心理を中心に描写していて、そこには命がけの「生きる極限」を語っています。



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