お取り寄せからみたニッポン

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第2回
秋田独自の金属工芸品・杢目銅

世界に同じものが二つとない文様

秋田県の伝統工芸品というと、山桜の樹皮を使った「樺細工(かばざいく)」や、秋田杉の軽く弾力に富んだ板で作られた「曲げわっぱ」といった木材の工芸品が思い浮かぶ。だが実は、秋田県は鉱物資源の宝庫でもあり、銀線細工といった金属工芸品の老舗もある。今は閉山されてしまったが、東洋一といわれた院内銀山や、阿仁銅山、佐渡ケ島には金山もあり、江戸時代にはこうした鉱物資源を使って、金属の細工物や装飾品、武具などが盛んに作られていたという。そうした加工技術に、秋田生まれの独特でおもしろいものがある。「杢目銅(もくめがね)」だ。

杢目銅は、江戸時代に佐竹藩お抱えの鍔師・正阿弥伝兵衛(鈴木重吉)が編み出した鍛造の一種。さまざまな色の異なる金属板を重ね、熱や圧力を加えて接合し、さらにそれを折り曲げたりひねった上、彫ったり叩いたりして、多層の木目や雲のような独特な模様を描き出すものだ。バームクーヘンやミルフィーユを斜めにカットすると断面が年輪のようにみえるが、こちらはその生地ができあがってから、さらにもっと複雑に、ねじったりたたんだり、彫って加工するため、世界に同じものが二つとない文様に仕上がる。正阿弥伝兵衛作と伝えられる最古の杢目銅は、金・銀・銅・赤銅の4種類の金属を使ったひとふりの小柄で、秋田県指定有形文化財になっている。こうした品の多くは、実用品というより、オシャレな侍たちの贅沢な小物として愛されていたのだろう。

しかし、1876年の廃刀令によって、刀関係の職人たちは廃業や転職を余儀なくされ、秋田独自の金属加工技術も、いったんは途絶えてしまった。

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