大震災特別寄稿

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第5回
フロムナウ取材陣が感じた震災41日後の“福島”〜その1〜

「福島」……というだけで根拠のない差別も

今回の取材では、耳を疑いたくなるような風評被害の話も伺った。一つは、中古車の問題。「今、福島ナンバーの中古車が全く売れないそうです。ナンバーが福島だからというだけで買い手が付かない。個人レベルでは気にされない方もいるのでしょうが、中古車を売買している業者には、買い控えているところも出てきています。ですから今、新しい車に買い換えたいと思っても、現在乗っている福島ナンバーの車を下取りしてもらえない。査定できないといわれているそうです」。そう語るのは、福島市内でサーフィン用のウエットスーツの製造・販売などを手がける、セサミの代表取締役 山口昌宏氏。今回の福島取材では、取材先との交渉を含め、全面的にご協力いただいた。

風評被害が、食べ物だけでなく、工業製品までに広がっているという実態。山口氏自身も「原発事故のあと、取引先から『お客さんが神経質になっていて、私どもの送った商品の入ったダンボールのふたをすら開けたくない』との電話がありました。だから、出荷しないでくれというのです」と、苦笑いをみせる。さらにやるせないのは、人間に対しても同様の対応が見られたことだ。

かわせみの加藤氏は、「先日、営業の再開することを伝えに東京・銀座へ出かけたのですが、そのときに同郷の人から『首都圏のとある場所で、福島ナンバーの車にガソリンを入れようとしたら、ガソリンスタンドの店員に向こうにあるセルフスタンドに行ってくれないか』といわれたそうです。かくいう私自身も、自分の車を取引先に近い銀座寄りではなく、新橋寄りの一番遠い地下の駐車場に停めて歩きました」と話す。

「今、東京に向かう福島の車って、みんな怖いのだと思います。どんな不安があるのだろうという不安です。ですから宇都宮を過ぎたあたりから、東京方面へと向かっている福島ナンバー同士、追い越しをするときなどに手を振ったり、ハザードランプを点滅させたりして、お互い頑張ろうという合図を出すようになっていきました」(加藤氏)。

もちろん今回は、放射能という目に見えない怖さがある。福島への取材が決まったあと、怖さを全く感じなかったかというとウソになるだろう。スーパーで福島県産と鹿児島県産の野菜が同じ価格で売っていたら、鹿児島県産の方を手に取るかもしれない。小さな子供のいる家庭が放射能に過敏になることに対して、不満を述べる気持ちは一切ない。親としては当然のことだと思う。だが、それを加味しても無用な差別までに発展させるのは、ナンセンスである。

こうした福島の現状を聞いているうちに、広島や長崎のことを思い出した。先の第二次世界大戦で被爆した広島と長崎の住民。彼らは、その後の人生において、自分の出身地を偽ったり、隠して過ごされている方が多かったと聞く。自分が生まれ育った街を、大っぴらにいえないような社会なんて実に寂しい。戦後の復興で経済的には豊かになった日本。しかし表面的な豊かさだけで、心の中は逆に粗末なものに成り下がってはいなかったか……。目に見える部分の成長だけを求めるあまり、バランス感覚が狂ってしまったのではないか……そんな気持ちを強く抱いた。

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