大震災特別寄稿

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第5回
フロムナウ取材陣が感じた震災41日後の“福島”〜その1〜

風評被害で注文が激減、旅館は休業を余儀なくされた

実際に福島市内へ入り、自分の目で市内の現状を見て回ることで、ようやく理解できたことがある。それは、福島市やその周辺地域で商売をしている“中小企業の悲痛な叫び”だ。幸いにも地震による被害は少なかった福島市内。街も住民たちも、すでに今までと同じ生活をしているのに、なぜ風評被害によって苦しい目に遭わなければならないのか。今まで通りの生活を送りたいだけなのに、それすら許してくれない状況。とても、やるせない思いである。東京電力、原発、そして行政への怒りである。

実際、福島第一原発の事故により、どういった風評被害を受けているのか? 福島市内を中心に8店舗の飲食店を経営するレパコの代表取締役 佐藤純啓氏は、ネット販売の状況を例に挙げる。「私どもは、実際の店舗のほか、インターネット上に開設したホームページを通じて洋菓子などを販売しています。このネット販売では、多いときで1日2000~3000件くらいの注文がありましたが、震災後、1日10件程度にまで激減してしまいました」という。

商品を購入するお客さんが減った理由――。それは、お店の住所が福島という地名が含まれているからだ。「お店の住所を見て不安を感じた消費者が、商品を購入するのをやめてしまったのではないでしょうか」(佐藤氏)。

折しも地震が発生したのは、ホワイトデー(3月14日)の直前。「私どもでは、焼き菓子など、約3000万円分の商品を持っていました。しかし、ほとんど販売できませんでしたね。地震直後はガソリンが不足したり、従業員が避難してしまったりして、営業ができなかったためです」と佐藤氏。


影響があったのは飲食店だけでない。東北を代表する温泉街「飯坂温泉」、その喧噪から一歩離れた地で「御宿 かわせみ」を経営する加藤秀樹氏は、「3月11日は、ちょうど大浴場の改装が終わる当日でした。誰一人お風呂に入ってもらえないまま、地震が起きたのです」と振り返る。ボイラーなどの施設に被害を受けたというが、「電気、ガス、水道などのインフラは10日前後で復旧しました」という。しかし、かわせみでは、施設の補修が終わっても営業を再開できずにいた。「お客様に対して、私どもからは、『ぜひお越しください』という言葉が出てこなかったのです」と加藤氏。原発問題が進行中の中で、今まで通りのおもてなしができるのか……という葛藤があったという。

3000坪の敷地に12室、ゆったりとした造りが魅力というかわせみ。15年の歳月をかけて社員自らが木を1本1本植えて今の庭園を造り、名前の由来でもある「かわせみ」がやってくるような自然との調和をつくり上げた。「私どもは、リピーターのお客様が多く、唯一無二の存在だというありがたい言葉で励ましていただきました。こうしたお客様の声や従業員の存在が、営業を再開する原動力になりました」と加藤氏。かわせみは、地震から約1カ月半たった、4月28日から営業を再開した。

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