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第6回
〈慢性中耳炎〉 予防の決め手は、急性中耳炎と鼻の病気をきちんと治すこと

聴力の回復度は、土台になる骨の状態で変わる

「穿孔性中耳炎」を根本的に治すには、鼓膜の孔を塞ぐ「鼓膜形成術」が必要だ。ただし、難聴の程度が軽く、もう片方の耳に異常がないなど、日常生活に支障がない場合には、保存療法も行われる。また、耳小骨も障害されている場合には、鼓膜の形成とともに、耳小骨を再建する「鼓室形成手術」を行う。5-7日前後の入院が必要だが、これらの手術によってほとんどの人は聴力がかなり改善される。

「癒着性中耳炎」の治療は、鼓膜をはがして、きちんと張り替える鼓膜の形成や、耳小骨が破壊されている場合は「鼓室形成手術」も必要だ。これらの手術で聴力はかなり回復するが、この病気には再発(再癒着)しやすいという特徴があるため、あえて手術はせず、様子を見ることもある。

慢性中耳炎のなかでも一番やっかいな「真珠腫性中耳炎」は、まず聴力検査、鼓膜の状態を見て真珠腫の有無を確認する検査を行い、さらにCT検査やレントゲンで真珠腫の大きさや、周囲の骨の破壊度などを調べる。

「真珠腫という病名ですが、腫瘍ではなく炎症性の疾患です。治療については、初期の例では鼓室痙性術を行いますが、進展している例では真珠腫の摘出手術との再発予防のために削った乳突洞を埋める乳突腔充填術(にゅうとつくうじゅうてんじゅつ)という手術、それから破壊された鼓膜や耳小骨を再建する手術を行います。大抵はこれらを同時に1回で済ませますが、子どもや、真珠腫の範囲が広く1回で完全に除去するのが困難な場合には2回に分けます。1回目は真珠腫を除去して、鼓膜のみを再建。半年から1年後に2回目の手術を行い、真珠腫の有無を確かめて、再発していれば再び除去してから耳小骨を再建します。耳の後ろから切開して行う手術で、入院期間は1週間ぐらいですね」(同)

手術後の聴力の回復度は、内耳に連結している耳小骨がどれくらい残っているかによって左右される。聴力の改善(耳小骨の再建)は、この骨を土台にするからだ。耳小骨がすっかりなくなっている場合には、せっかく再建しても不安定で、傷の治り方いかんではひきつれて倒れてしまうケースもあるという。

「やはり受診も手術も、少しでも早い方がいい。それから何より大事なのは、急性中耳炎をきちんと治しておくことです。あと耳管は一方で鼻の奥に開いていますから、副鼻腔炎など鼻の病気もちゃんと治さなければいけません。そうすれば慢性中耳炎は防げる病気なんですよ」(同)

名医のプロフィール

慢性中耳炎の名医

森山 寛(もりやま・ひろし)

東京慈恵会医科大学付属病院院長 耳鼻咽喉科学教室教授兼務
1973年東京慈恵会医科大学卒業、1992年東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科学教室教授、2004年東京慈恵会医科大学附属病院院長(耳鼻咽喉科学教室教授兼務)現在に至る。
専門分野は、中耳疾患と副鼻腔炎の病態と治療。「イラスト手術手技のコツ 耳鼻咽喉科・頭頸部外科」(東京医学社 2003年)、「耳鼻咽喉科・頭頸部外科 外来手術の基本テクニック」(中山書店 2006年)など著書多数。NHKの「きょうの健康」などテレビ出演も多い。
同大学の耳鼻咽喉科学教室は、120年前に日本で初めて耳鼻咽喉科を開設したことでも知られている。

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