名医に聞く

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第20回
慢性腎臓病(CKD)2/2

唯一の根本的治療は腎臓移植。近年は「夫婦間」が増えている

末期腎不全の患者には、透析のほかに、腎臓移植という選択肢がある。
腎臓移植は、働きを失った腎臓を、提供された健康な腎臓と取り替える治療法で、今のところ末期腎不全の唯一の根本的治療法だ。
日本では年に1000件近く行われ、これまでに20,000人前後の人が移植を受けている。欧米に比べるとかなり少ないが、30年以上の実績があるのだ。
また、近年では免疫抑制剤の進歩により、提供者と患者の血液型(A,B, AB, O)が異なる場合でも、血液型が同じかそれに近い場合(不一致)とほとんど変わらない成績を収めるようになってきているという。ここ数年では夫婦間の移植が増えたこともあり、生体腎移植の5人に1人は血液型不適合の腎移植を行っているらしい。

腎臓移植をすると、透析治療から解放される上に、食事の制限も緩和され、気分もすっきりして、全身状態が大きく改善する。女性の場合は妊娠・出産も可能になり、子どもの場合ではほぼ正常に近い発育が期待できる。このメリットは大きいはず。

ただし、提供された腎臓を長持ちさせるためには、生涯にわたる免疫抑制薬の服用が欠かせないという問題がある。

「日本の腎臓病医療の課題は、血液透析だけでなく腹膜透析ができる施設を増やすことが1つ。もう1つは移植の体制を充実させることだと思います。
現状では、いったん透析になると、移植の選択肢があるという説明を一回も受けなくなる場合が多いのです。
学会では、透析をはじめるときは、すべての患者さんに対して治療の選択肢を説明しましょうと指導していますが、実際にどこまでできているかは分かりません。
この状況を変えるには、インセンティブをつけないといけないのではないでしょうか。
食事療法の指導をきちっとすれば診療点数がつくとか。
でなければ、血液透析と腹膜透析の割合や、移植の説明を何パーセントの患者さんが理解しているかなどの数字を公表して、患者さんが医療の質を判断できるようにするのもいいのではないかと思っています」

程度の差はあれ、人口の約1~3割がもっているといわれる慢性腎臓病は、もはや「国民病」の1つ。日本人としては、そのへんをちゃんと自覚して、早期発見はもとより、患者が医療を選べる体制の充実をめざしたい。

名医のプロフィール

慢性腎臓病の名医

小松康宏(こまつやすひろ)

聖路加国際病院 副院長、腎臓内科部長、QIセンター長、
千葉大学医学部臨床教授
東京女子医科大学腎臓病総合医療センター 非常勤講師
千葉大学医学部卒業、ノースカロライナ大学チャペルヒル校公衆衛生大学院卒業、フロリダ大学医学部薬理学教室、UCLA腎臓内科・腎臓小児科留学、千葉県こども病院腎臓科医長等を経て2011年1月より現職。

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