荒野のエッセイスト(映画編)

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第2回
「アメイジング・グレース」
ポップスの背骨が浮かび上がる

「アメイジング・グレース」という曲がある。
一時はウェディング・パーティーの司会を生業としていた僕にとって、この曲は新郎新婦の入場の際に、黒人のゴスペル・シンガーが朗々と歌うというイメージが強い。
一般の音楽ファンにはエルヴィス・プレスリーや本田美奈子のレパートリーとして知られている。
同名のタイトルの映画が3月5日に封切られた。

キャッチ・コピーは「その歌が教えてくれた。愛で歴史を変えられると。」

僕はタイトルのイメージから、アメリカンでポップな映画だと思っていた。
エルヴィスだし、美奈子だし……。
ところが、映画の舞台は何と200年以上昔のイギリス。
おっと、そんなに古い曲だったんかい!
この映画は「アメイジング・グレース」をモチーフにしてはいるものの、その誕生のエピソードではなく、奴隷制度に反対する若き政治家の一途な姿を描いている。
その過程で、かつて奴隷船の船長だった牧師が、自らの半生を悔いて書いた曲だということが明かされる。
この牧師に役するのが「オリエント急行殺人事件」等の映画でアカデミー賞最優秀主演男優賞に3回もノミネートされたことのあるアルバート・フィニー。
名優の登場で、突然映画に深みが加わり、全体がギュッ締まる。
役者の底力とは恐るべきものだ。

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