お取り寄せからみたニッポン

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第19回
兵庫県・播州そろばんで数と親しむ

そろばんの生産から、多数の木工製品へ

大きくなった子供の机を整理していたら、そろばんがでてきた。小学校の授業で使って以来、ほとんど出したことがなかったと見えて、まだピカピカの状態たった。懐かしくなって、使ってみた。日常的な計算は電卓ばかりになってしまったが、そろばんを指ではじいて計算する動作は忘れていなかった。
伝統工芸としてのそろばんの産地は、日本では二ヶ所ある。そのひとつが兵庫県の小野市を中心とする一帯。昔でいう播磨・播州で作られた「播州そろばん」である。

そろばんはもともと、中国のものが日本に伝わったもの。長崎で作られ始め、それが慶長年間に大津に製法が伝わって作られるようになったのが、大津そろばんだ。
この大津のそろばん作りが播州に伝わったのは、豊臣秀吉がまだ羽柴秀吉だった頃の三木城攻略が起源とする説がある。三木城は小野市に隣接する三木市にあり、一帯の住民が大津方面に逃れた。そこで習得したそろばんの製法を地元に持ち帰って、盛んに作られるようになったという伝承があるという。
日清戦争後は大量生産する会社もでてきて、昭和35年頃には年間300万丁も作られていたが、昭和40年代にはすっかり電卓にとってかわられてしまった。それでも現在も、国内市場の7割のシェアを占めているという。

この「播州そろばん」が、通産大臣指定の伝統工芸品に指定されたのが昭和51年。町ぐるみでソロバンの普及につとめ、率先して全国高校珠算大会の開催といった事業も展開している。小野市伝統産業会館には、そろばん博物館やそろばん資料室があり、まるめることができるロールそろばんや、二つ折そろばん、213桁もあるロングなそろばんなど、珍しいそろばんをいろいろ見ることができる。

そろばんの素材は、黒檀、紫檀、樺、柘、楓などさまざまな木材が用いられ、100を超える工程がある。まっすぐな芯竹の軸作りから、均質なサイズの珠作り、枠を組んで珠を入れ、磨いて仕上げるといった多数の工程を、狂いなく仕上げる精度も要求される。そうした中で培われてきた製造技術や設備は、木工工芸品にも応用され、昭和30年頃からは「木珠のれん」などの製品化にも発展。ほかにも多数のインテリア製品が開発され、昭和45年頃からは小物家具の製造も普及していった。

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