私が見つけたライフワーク(2)

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第14回
キクという山野草は存在しない

それを示すのが、万葉集と古今和歌集の違いです。759年ごろまでに詠まれた歌が掲載されている万葉集には多くの植物が登場し、約百六十種の植物が現れますが、キクは見当たりません。
それが平安時代になって、905年に成立したといわれる古今和歌集には、キクが登場します。そして、それ以降の枕草子や源氏物語では当然のようにキクが登場するのです。
キクは、最初から宮廷に植えられた園芸種の花としてスタートした経緯があるので、日本のみならず、原産地といわれる中国でも、そして世界中を見渡してもキクという山野草はないのです。

日本のキクは普通、単に「キク」と呼ばれています。ほかの呼び方は、イエギク、大ギク、中ギク、小ギク、輪ギクといろいろありますが、種類としては同じものです。

リュウノウギク 日本特産の白い野生菊です

さきほど、キクは山野草でなく園芸種だといいましたが、園芸種と呼ばれる花は、もともと野生にあった原種を元に人間が改良または交配させて作り出した作品であり、自然界には自生しない植物です。しかし、元になった花は自然界に存在するもので、それらはすべて山野草だったはずです。
キクの原種説として、チョウセンノギクとシマカンギクの交配だというものがあります。ほかには、日本のノジギクが中国に渡り、それが改良されて里帰りしたという説もあります。
ともあれ、どこかにキクの原種が存在するはずですが、今でも明確には分かっていないようです。
キクという園芸種の作品は残っても、何千年も経つと、もともと自然の中で咲いていた山野草としての原種のキクはどんなものだったかという情報は、みんな忘れ去られてしまうようです。

キクの原種はよく分かっていないと言いましたが、そういえばキクは元々どんな色だったのでしょう?白か黄色か、もしかしたら両方の色があったのかもしれませんが、最初にキクが日本にもたらされたころは、次の歌が示すように白いキクだったようです。

「心当てに折らばや折らむ初霜の置き惑はせる白菊の花」(古今和歌集/凡河内躬恒(おおしこうちのみつね))

黄色い野生ギクでアワコガネギクといいます。野生ギクは海岸に多いのですがこれは山に咲きます

キクはキク科に属しているわけですが、この科は世界で950属2万種とも3万種あるともいわれていて、被子植物の中の最大派閥になっています。
キクの仲間はこのように数が多いので、日本にもキクと名がつく花は数多くありますが、キクに近いキク属に属す自然のキクはそう多くはありません。
狭い地域限定の種類や変種を除くと、次の種類くらいです。
ノジギク・シマカンギク・リュウノウギク・アワコガネギク・イワギク

ノコンギクといい、キクの兄弟ではなく
親戚ぐらいにあたります

これらは、言わば兄弟みたいなもので、キクによく似ています。その中でも、キクらしいキクなのがノジギクですが、野生のものは残念なことに西日本にしか存在しないので、私もまだ見ていません。
関東で比較的多く見られるのはアワコガネギクで、花は小菊よりも小さいですが、キクとしての感じは似ています。
逆に、キクに似ていてもキクとは別の属のものもあります。ノコンギクやヨメナは野菊と呼ばれてはいますが、シオン属という別の属に分類されています。

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