私が見つけたライフワーク(2)

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第14回
キクという山野草は存在しない

ところで、キクは植物の中で最も進化した植物だといわれています。それについて、牧野富太郎博士は面白いことを言っています。
「進化したということは、自分の子孫を後に残すのに一番都合よくできていることであります」

キクの花は、花びらがいっぱいあるように見えますが、実はそれらは花びらではなく、一つ一つが花そのものです。私も、最初このことを知ったときは、驚くというより感心しました。
効率を考えれば、花が一つ一つ離れて咲くより、一カ所に集まって咲いた方が、確かに種を作るチャンスも増え、その数を増やすことができます。

外側の花びら状の花一つ一つを、「舌状花」といいます。ですから、多くの花びらが…ではなく、多くの花が集まっているのがキクの花ということになります。
そして、もっと驚くのが、花の中心です。実は、この花の中心にも別の小さい花が集まっているというのです。こちらはキキョウのような筒の格好をしているので、「筒状花」と呼んでいます。
何と、キクにはもう一つ花があったのです。つまり、キクは2種類の違う花が集合している「花のマンション」みたいなものです。こんなところが、進化した所以(ゆえん)なのかもしれません。

真ん中の丸い一つ一つが筒状花で、
まわりの細い一枚一枚が舌状花といいます

最後に、キクの読み方について紹介しましょう。キクは、漢字で「菊」と書きます。その読みは「きく」で、どうみても訓読みにしか思えませんが、音読みなのだそうです。正確には、漢音も呉音も「きく」。訓読みにあたる読みは無いとされています。
古い花で、漢字一字で書くものは桜、梅、桃、萩(はぎ)、橘(たちばな)などいろいろありますが、国字の萩を除いて、いずれも音読みと訓読みが存在します。


音読みバイオウキツレントウトウキク
訓読みウメサクラタチバナハスフジモモ--

しかし、菊だけは音読みしかありません。菊以外(梅を除く)は、元々日本にあったものか、相当昔の時代に日本にもたらされたもので、奈良時代の人にとっては既に日本にある植物だったのです。そして、それらを示す呼び方は既にあったわけで、その呼び方に漢字をあてはめたのでしょう。
キクの場合は、漢字と現物が同時に渡来しました。現物が一緒に来てしまったため、日本の花のどれに当たるのか、という話にはならなかったのだと思います。また、キクが日本的な音で受け入れやすかったのかもしれません。

キクや野菊の花を見かけたら、昔をしのぶのも一興だと思います。

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