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第26回
スイセンは日本ではめでたい花、世界では神話の花

ニホンズイセンは元々日本にはなく、昔に中国から伝わったと言います。人が持ち込んだのか自分で海を渡ったのかは分かっていません。また、その中国でさえもっと昔は無かったようです。本当は、遙か昔にもっと遠い所、地中海からシルクロードを経由してやって来たと言います。

湖を見るみたいにスイセンはうつむくと言います湖を見るみたいにスイセンはうつむくと言います

その地中海には、スイセンの有名な神話が残っています。河神と妖精の子、美少年のナルキッソスと妖精エコーの話しです。
誰も愛せなかった少年に声を掛けても逃げられてしまったエコーは嘆き悲しみ身体を失い、こだまになったと言います。そして少年は別の相手の恨みで復讐の女神から湖に映った自分に恋をするように仕向けられ、応えぬ鏡像に精神を乱して冥界に渡りました。そして、身体が消えた跡にスイセンが咲いていたと言う神話です。

少年の名前ナルキッソスはスイセンの学名になり、心理学のナルシズムやナルシストの語源にもなりました。これは神々の神話と言うより、「変身物語」という神話の中のエピソードをまとめた本に書かれていて、ヨーロッパ人も多くは専門的な神の系譜よりこのような話しをギリシャ神話のイメージとしているようです。



ナルキッソスが変身したスイセンは黄色?それとも白?


ところで、神話のスイセンはどんな花だったのでしょう?それを述べたものはあまり見ませんが、変身物語(岩波文庫-中村善也訳)では、「白い花びらにまわりをとりまかれた、黄色い水仙の花が見つかった。」とあります。黄色の水仙か!と思えますが、「とりまかれる」とは不思議な言葉です。白いスイセンは中に副花冠と言う黄色のミニ花びらがあり、それを取り巻くように本来の白い花びらが取り囲んでいます。この事を言っている気もしますが何とも言えません。神話の世界のことは不思議のままが良いのかもしれませんね。
また、この神話の花はニホンズイセンのように香りが楽しめる品種もあり、記憶に残る匂いです。それもそのはず、スイセンの香りは香水に使われると言います。

見ただけでは間違いやすいニラとスイセン 左がニラで右がスイセンです見ただけでは間違いやすいニラとスイセン
左がニラで右がスイセンです

ただ、スイセンには注意点もあります。優しげに見えても全草毒で、しかも葉はニラに似ています。
そのためニラの近くにスイセンがあると、その葉が紛れ込み中毒を起こす事件が毎年のように起きています。
ナルキッソスの怨念ではないと思いますが、スイセンは眺めて香りを楽しむだけにした方がよさそうです。

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