名医に聞く

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第9回
〈がん(化学療法)〉 分子標的治療薬が大きな変化をもたらしつつある

がん化学療法が効くがんと効かないがん

では抗がん剤と分子標的治療薬はどう違うのか?
「抗がん剤は正常細胞もろとも、がん細胞のDNAを殺す薬です。とにかく大量の薬でとことんやっつけると、がん細胞も死ぬけれど、正常細胞も死んで、患者さんも死んでしまうかもしれない。それだけ副作用が強いのです。たとえば血液のがんの場合、白血球も一緒にやっつけてしまうので、免疫力が極端に低下します。骨髄移植をするのは、正常な細胞をレスキューするためなんですよ。
一方、分子標的治療薬というのは免疫を抑制しないし、白血球も減らしません。DNAではなくて、がん細胞が自分でたくさんつくり出している、細胞の増殖シグナルの経路をやっつけるんです。がん細胞の増殖にかかわる因子をやっつけるのが分子標的治療薬です」

かくして、分子標的治療薬の登場は、従来の抗がん剤治療ではほとんど効果の期待できなかったがんを治療できるがんに変えるなど、化学療法に大きな影響をもたらした。
ただもちろん、分子標的治療薬も含めて、どんながんでも治療できるというものではないし、がんの種類やもろもろの状況によって、治療効果にも差がある。

「がん化学療法は、どなたにでもできるというものではありません。適応にあたっては、がんという診断がついていて、効果や副作用など、患者さんにインフォームドコンセントがきちんとなされていなくてはなりません。
化学療法を行う目的も、単に「腫瘍の縮小」ではなくて、根治、延命、症状緩和、手術・放射線治療の補助的な役割などさまざまです。何を目的にするかは、腫瘍の化学療法に対する感受性、腫瘍の進行度、患者さんの年齢や全身状態などから決定します。
どうして化学療法をやるのか、治癒する可能性はあるのかどうか、延命効果はあるか、患者さんはそういうことをどこまで理解しているか…といったことにおいて、医師と患者さんの意志疎通をはかることがとても大事です」

化学療法が非常によく効くため、完治をめざすがんには、急性白血病、慢性白血病、悪性リンパ腫などがある。卵巣がん、食道がん、乳がん、肺癌のなかの小細胞がんでまだ限局型のものも、かなり治療効果が期待でき、なかには治ってしまうケースもあるという。 胃がん、大腸がん、非小細胞がん(一般的な肺癌)でも、明らかに生存期間が延長される。残念ながら、効果が少ないのは、すい臓がんや胆管・胆道がんだ。
「胃がんで全身の骨に転移した人でも、化学療法によって社会復帰できるくらい回復される方もいるんですよ」

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